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お知らせ

ES 細胞から内皮分化におけるゲノムワイドな解析を報告しました(Nucleic.Acids.Research)
2017.03.27

異動すると、やり残してきた仕事をまとめるのはかなり大変だと実感しました。(まだまだ残っています)。今回は VEGF の内皮分化誘導におけるヒストンマップとトランスクリプトームから見えてきた全事象をまとめました。今回の筆頭著者は以前の東大先端研の神吉助教で、今はアメリカ NIH でポスドク中、また二番目の著者は東大先端研からバイオインフォーマティクスのベンチャーを立ち上げ、企業活動を行っている最中です。何とか仕事を完遂したいし、シンポジウム用事のついでに NIH 訪問したり、東京でのスカイプ会議などを随時行いながら、論文発表までいきました。次は終末分化した内皮細胞での VEGF 早期刺激での全エピゲノム情報です。これはとても大事なので、結果報告に至るまで頑張ります。

 

                                                                                                                                                                             熊本大学

血管分化を導く遺伝プログラムの一部を解明

―血管分化におけるヒストンと転写のはたらきを同定―

 

【概要】

再生医療の進展に向けて各臓器に酸素や栄養を運ぶ役割をもつ血管を構築することは急務となります。そこで熊本大学生命資源研究・支援センターの南 敬教授は京都大学 iPS 細胞研究所、東京大学先端科学技術研究センターと共に、幹細胞が血管細胞になる間におこる全遺伝子の働きの変化を追跡しました。その結果、幹細胞が血管に分化する際の刺激に応じて、遺伝子の転写の状態を変化させる「ヒストンコード」が経時的に変化していることを突き止め、更に、血管分化に必須な転写因子群 (ETS/GATA/SOX) が新たな役割を持っていることを見出しました。

 本研究の成果は、「Nucleic acid research」に平成293170(GMT)【日本時間の317900】に掲載されます。

 

 

【研究の背景】

超高齢化社会を迎えた先進国において、がん・生活習慣病の根本原因にもなり得る血管病態を解析し、その異常を治すことは疾病治癒や予防の上で重要です。そこでまず血管構築の礎となる血管内皮細胞がどのような遺伝プログラムで発生・分化し、血管を形作るのかの解明が求められています。我々は未分化 ES細胞から内皮細胞への分化を促す内皮細胞増殖因子 (VEGF) を加え、試験管内 (in vitro) で全ゲノム*1遺伝子の挙動やエピゲノム*2変化を経時的に追跡する研究を進めました。

 

 

【研究の方法】

京都大学iPS 細胞研究所山下潤教授にて開発されたES 細胞から内皮細胞へ分化する細胞を用いて、VEGF 刺激直後 0時間)、分化前 (6時間)、分化途中(12-24 時間)、分化決定後(48時間)での RNA とヒストン*3を収集し、東京大学先端科学技術研究センターの神吉助教と共に次世代高速シーケンサーを用いて、全ゲノムと全エピゲノムの変化を網羅的に解析しました。

 

 

【結果】

血管分化の過程において、血管内皮への分化を決定づけるタンパク ETS variant 2(ETV2) のはたらきがまず分化刺激6時間以内に誘導され、その直後、ETV2 と結合して内皮分化をサポートするタンパク GATA2 が誘導されること、次いで12-24 時間にいずれも内皮分化に重要な転写因子 SOXFLI1 が誘導され、最終的に内皮分化が決定される48時間になって内皮分化に特有の遺伝子が例外なく全てはたらくよう誘導される転写のシステムが成り立っていることを見出しました。更に遺伝子の転写の状態を変化させる「ヒストンコード」を経時的に調べたところ、内皮分化に必須な転写因子のゲノム領域は、内皮への分化の過程において転写を抑える「ブレーキヒストンマーク*4」から転写を活性化する「アクセルヒストンマーク*5」に段階的にスイッチする現象を見出しました(図1、図2)。これらの内皮分化に必須な転写因子ははたらきを喪失すると、内皮への終末分化(分化の完了)が完全に抑制されるだけでなく、内皮細胞以外への分化の鍵となる遺伝子や、山中伸弥教授が見出した未分化の状態を維持する転写因子が逆に誘導される結果となりました。

 

 

【考察と結論】

これまで ES 細胞から、各細胞への分化を促す転写因子のはたらきを制御する領域は、転写の「アクセルヒストンマーク」と「ブレーキヒストンマーク」といった、ヒストンの相反する化学修飾が共存する状態になっていることが想定されていました。ところが、我々の網羅的なゲノム解析において同定した内皮分化に必須な転写因子群 (ETS/GATA/SOX) においては、経時的にヒストンの化学修飾の状態を高解像度でみた場合、各転写因子の不活性化(ブレーキ)を促す化学修飾の状態から活性化(アクセル)する化学修飾の状態へとむしろ段階的にスイッチしていることが初めて明らかとなりました。更にこれらの転写因子群は内皮分化を誘導するだけでなく、未分化状態への逆戻りや他の外胚葉・内胚葉由来の細胞へ分化することを抑制していました。

これらの転写因子の機能を明らかにすることは、昨今の遺伝子編集技術の応用と合わせて、効率良く血管を再生する技術に応用できることが期待されます。

 

(脚注例)

*1ゲノム:生物の持つ全DNAの塩基配列の情報

*2エピゲノム:遺伝子の働きを決定するDNAに巻き付くヒストンタンパク質の様々な化学修飾(メチル化やアセチル化)の情報

*3ヒストン:DNAを折りたたんで細胞の核の中に収納させるタンパク質。遺伝子の情報のうちどこを使うか使わないかが調節される。ヒストンの化学修飾による遺伝子情報の調節は後天的に行われ、ヒストンに加えられた修飾はヒストンコードと呼ばれる。

*4ブレーキヒストンマーク:DNAからRNAへの転写を抑制させるヒストンの化学修飾の位置

*5アクセルヒストンマーク:DNAからRNAへの転写を促進させるヒストンの化学修飾の位置


(図1)

図1-3.png

(図2)

図2-3.png


VEGF 刺激6時間から Etv2,GATA2そして Fli1, Sox7, Sox18 の内皮分化を決めるタンパクが転写され、それらは血管内皮に特徴付けられる核タンパクや膜タンパクを誘導する(アクセル)だけでなく、血管内皮以外の細胞である平滑筋や血球、上皮、心筋細胞に特徴的な遺伝子の誘導を阻害していた。即ち他の細胞への分化を積極的に抑制(ブレーキ)していることが明らかとなった。

図3.png

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